みっつめ

ぱちりと目があった。 正確に言えば、彼女が俺を見つめてきた、という表現の方が正しいか。
にっこりと微笑むわけでもなく、恥じらうように視線をそらすわけでもなく、ただ彼女はじっと俺を見つめるだけで、他には何もしようとしない。
それも当然か。彼女には、見つめることしかできないのだから。
ヴィレッタが鼻歌交じりにキッチンで鍋の中を覗いている間中、彼女はじっと俺を見つめていた。

わかってる、わかってるよダーリン。
俺は今も、君を愛しているよ。

そうっと愛しい彼女の名前を呼んで、俺が少し目を細めると、その間に彼女はまたすっとその真紅の瞳を閉じた。
「できたわよ!」
その時ちょうどヴィレッタの明るい声が俺を呼んで、俺ははっと我に帰る。
もう少し彼女を見ていたかったのだけれど、名前を呼ばれただけで満足したのか彼女はもう俺を見てはいなかった。
「ダーティー?」
キッチンから俺を呼ぶ、ヴィレッタの声。
その声は、あの頃聞いていた彼女のそれとはまったく別のものだ。そう分かってはいるけれど、それでも、
「今行くよ」
俺はそう呟いて、立ち上がる。
それでも俺は、あの頃彼女に返していた返事を、ヴィレッタに返すより他無いのだ。
キッチンに現れた俺の姿に、ヴィレッタは楽しそうに振り返る。
その額に存在する三つ目の赤い瞳だけが、どこか悲しそうに笑っている気がした。