小さな文字を追う彼の瞳をじっと見つめているうちに、
俺はその昔そこに座っていた同じピンク色をぼんやりと思いだしていた
彼が絵本をめくるその動きに合わせて、居るハズもない透明な彼女たちはひそひそと俺に目配せをする
(リジー、あたしまだ読んでなかった、!!)
(ロージー、読むのおそいんじゃない?)
くすくすとお互いが顔を見合わせたところで、真ん中のピンクが静かに絵本を閉じる
絵本が閉じると両サイドのピンクは消える
彼女たちはどこまでも透明で、どこまでも鮮やかな、俺の記憶の一部にすぎないわけで
「Daddy、これ面白いね」
「あぁ…あの子たちも大好きみたいだね」
あの子たち?そんなセリフを今にも呟きそうなきょとんとしたピンクが俺を見上げる
なんでもないよと呟こうとして、その前にその小さな頭に手を乗せた
鯉壱は少し肩をすくめてただ黙って俺を見つめたまま、それでも俺の手を払いのけようとはしないから、
俺はゆっくりと彼の前にしゃがみこんで頭から頬へと手を滑らせてみる
「お前さんの目は綺麗な色だな」
ピンクの左目は、彼女たちと同じ色
触れた頬の感触も、彼女たちと同じ笑顔
「母さんの赤色が、綺麗にしてくれたみたいだ」
俺の愛したピンク色
彼女の上品な真紅と俺の柔らかい灰色が生みだした色
「Daddy?」
それでもこの子は彼女たちとは違う、俺はそれを何度もこうやって確認してきた
のせた手の感覚が同じでも、鯉壱の右目は紫で
鯉壱は鯉壱で
「…これ、絵本」
渡された絵本に彼女たちの小さな手の痕がまだついているような気がして、
俺はできるだけそうっと受け取った絵本に小さく微笑みかける
「おもしろかったよ、ありがとう」
「こちらこそ」
微笑むピンクにそう告げて、俺は薄い絵本を情けないほど孤独な灰色の胸に押しつけた
吸い込んだベビーピンク
( 繰り返す毎日に染みついて、とれない )