白々しい嘘を重ねるこの男にふさわしい罰が必要だと思いたったのは、日が昇る前の、一番暗い時間帯だった。ハチルは相変わらず人のことなど何にも考えていないような、無邪気でずうずうしい子供みたいな顔をしてすうすう眠っていて、わたしが一人ぼっちで寂しい夜に何度も何度も心のなかで彼の名前を呼んだことさえ知らないし、時にはどんなに祈っても朝には消える彼のことをすぐ隣で呪い続けていたことさえ知らないままだった。わたしがその額にキスを落とせば僅かにゆるく、微笑む、彼の間抜けな顔。大好き。だからわたしはこの男にふさわしい罰を一生懸命考えた。どんな手段で彼をこっぴどく泣かせてやろうか。暗闇に一人、取り残される気持ちを、じわじわ、闇に取り込まれてしまいそうな孤独と静寂を、彼も味わえばいい。怖いぞ、君が思っているより、一人ぼっちは遥かに怖い。世界のすべてが君を拒絶し、君の持っているすべてが取り上げられて、居場所がなくなる。思考は支配され、不安という悪魔が脳の後ろの方で小さく囁く、ここで何をしてる? お前は要らない存在だ。無駄に生きてきたな。一体全体何をやってきたんだ。何かお前が、誰かの役に立つことがあったか? 成し遂げられたことは? いつも逃げ続けて、自分のために生きてきたお前が、誰かに必要とされたいだなんて、おこがましいんだよ。なんてね。聞き飽きた劣等感の自己卑下のことばたち。わたしのおともだちなの。ほんとはさ、あなたが私の名前を呼んでくれれば、それでいいの。あなたのために存在してるって、思えれば、それでいいの。たったヒトコトでいいから、あなたの声で、あなたの口から、わたしの名前が滑り落ちてくる瞬間を見届けたいの。肌に触れて、寝息を立てる彼の口元に耳を寄せる。日が昇る前に、この唇が、名前を呼んでくれますように。くちづけた想いは、カーテンの隙間からするりと滑りこんだ眩しすぎる朝日に掻き消され、ゆらぐ泡になって、消えた。