好きだとか愛してるとか、そう言う言葉は聞き飽きたと君は悲しそうに笑った。 でも、俺はそれ以外に君に捧げる言葉が見つからないから、やっぱり愛を言い訳に使うしかなくて
でも俺、君をこんなにも愛してるんだ
告げようとして口を開きたくても、君がそんな顔をするせいで俺は怯んで、声が出なかった。
どうしてだい、俺たちは、世界一、幸せなはずじゃ、
「私は幸せじゃなかったの」
君が吐く言葉は、いまさら俺をひどく痛めつけて、俺は頭が真っ白になって、耳の奥がわんわん鳴って、
情けなく倒れてしまいそうになる、あぁ、そんな、君が、そんなこと
「でもあなたのせいじゃないのよ」
震える俺をそっと抱きしめて、君が静かに言う
俺の耳をじんわりと浸食する甘い声。俺の目には君しか映らない。
抱きしめて、離したくない。君も、そうなんじゃなかったのかい?
それでも君がこれを幸せと呼ばないなんて、嘘みたいだ。
優しい君が俺の耳のすぐそばで、ていねいに言葉を選んでいるのが分かった。
そしてそれが、どんなに優しい言葉でも、俺を傷つけることを君は知っていた。
「私はね、少なくとも、幸せじゃなかった」
小さな体で俺を抱きしめながら、愛しい君は言う。
俺の頭を撫でるその手つきは優しくて、それでも幸せじゃないなんて、俺には信じられなくて
どうしてだ。どうして君は、そんなにも、
「泣かないで、」
いつか、わかるわ。君が零した言葉が、別れの言葉だということは俺にもすぐに分かった。
俺が慌てて手をのばす前に、君は酷く優しい微笑みで俺を見つめて、俺の頬を優しくなぞって、
「いかないでくれ、」
俺は情けなく喚いた。
俺を、一人に、しないで
「愛してるわ、」
あなたを愛してる
俺の名前を呟いて、君は静かに微笑んだ。
俺が君を幸せに出来なかったのだと、優しい君は最後まで言わなかった。
「ステキな夢を見たのね」
俺の目に溜まった涙を見て、ヴィレッタがそっと言った。
ぼんやりと見上げれば、微笑む彼女の舌がそっと俺の涙を拭う。
「泣かないで、」
愛しさを込めて降ってくる言葉は、まだ君の声として耳に残っていたから余計に泣きたくなる。
同時に体が熱くなって、どうしようもなくなって、黙れとヴィレッタを突き飛ばしたくなって、
頬を撫でるヴィレッタの指をはねのけて、俺はただ口を閉じたまま彼女を睨んだ。
すぐ目の前でヴィレッタが一瞬怯んだように、少し悲しそうに俺を見つめるその目すら君を思い出すようで、ああ、もう、俺はいったいどうしたらいい、
わけも分からず泣きたい気持ちだけを抱えて俺は何も言わずにベッドの中で一人ぐったりと目を閉じた。
ヴィレッタが寄り添うようにその腕を俺に絡めるのが分る。
あぁ、俺もだ
俺も幸せなんかじゃない
だって君がいない、
きみがいないんだ
目を閉じたって、君には会えない。俺にはもう分かっていた。
もう二度と、俺は幸せにはなれない。