並べた罠に気付かないフリ

「お嬢知らねー?」

いつものように唐突に現れたキャスケットにニータは目を細めた
本気でそこにいるなんてちっとも思ってもいない癖に、
その辺に無造作に転がされたクッションの裏側を確認してみたりしながら、
彼はクインを探しているようで

「ハチルさんのとこじゃないですかぁ」

苛立ち交じりに吐き捨てれば、キャスケットはぽかんと一瞬意外そうな顔をする

「ニータちゃんがそれを認めるなんて珍しいねェ」
「ニヤニヤしないでくださいよぉ気持ち悪ぅい」

ソファにちょこんと座って爪を弄る彼女のその横にニヤニヤ顔のキャスケットがすり寄って来て
ニータは思い切り顔をしかめると同時に彼から離れようと腰を浮かすから、
キャスケットはすかさずその細い腰を掴んで無理やりソファに座らせる、
ニータは思い切りこれ見よがしなため息をついた

「そんな嫌がんなくたっていいじゃない」
「嫌ですよぉニータおっさんにさわられるのとかマジ我慢できないんでぇ」
「ちっちゃい頃はおじさんに抱かれんの好きだったろォ~!!?なに反抗期?ちぇっ、やだね~」
「抱かれるとかあんたが言うとシャレになんないしぃマジ鳥肌立つんでやめてくださいよぉエロ親父は嫌いですぅ」

ずばずばと手痛い言葉を投げつけてくる彼女にキャスケットもむくれた顔でわざとらしくしょんぼりして見せたりして、
それでも掴んだままの腰から手を離そうとしない彼の神経は相当のモノだとニータは思う
さっさと離せよエロ親父、引きはがそうと掴んだ腕に力が入ったかと思うと今度は思い切り抱きつかれて、
あぁああもうイライラする、ニータは声にならない感情でぐるりと目をまわした

「キャスケットさんってぇ、ぶっちゃけ誰でもいいんですかぁ?クイン様でもハチルさんでも、ニータでもイイって感じぃ」

うっかり抱きつかれたままの状態で何を言ってるんだと自分でも思う
これじゃ嫉妬してるみたいじゃん、そう気づいた瞬間にニータは思わず死にたくなった
ところが当の本人は彼女の言葉に返事も返さず、気持ちの悪い事にニータの髪に顔をうずめながらしまいにはごろんと彼女の膝の上に頭をのせて寝転がってしまうから、
こいつ本当にやりたい放題だな、クイン様はこんな男の何がどう気に入って一番隊に入れてるのかわかんないよ、
誰にも届かない悲痛な声を抱えてニータはまた盛大な溜息をつく

「あれ、ニータちゃん抵抗しないの?」
「嫌がる女の子の方が好きですかぁ?悪趣味ですね変態」

疲れたんですよぉあんたの相手は、そう吐き捨てればキャスケットはニヤニヤ笑ったまま短くそう、とだけ答えるから、
あぁやっぱこの男なんか勘違いしてんな、そう思ったニータにはその勘違いを正してやろうという気力もなくて、
ただ自分の膝の上に乗せられた彼の額にごつんと思いっきり肘を当てるだけにしておいてやるのだった