かわいいせつなさ

突然おでこにピタリと当てられた手に小さな彼女はうお、だなんて女の子らしからぬ悲鳴をあげて、
なんつー声出してんだよと俺はただ苦笑した。
本当は中身おっさんなんじゃないの?とふざけて聞いたら、キッシュは俺の顔を見上げてその可愛いほっぺたを膨らまして見せるから、
俺はその愛らしい表情に笑いながら右手でそのほっぺを掴んで、彼女の口からは間抜けな音ともに空気が抜けた。
俺に頬を掴まれたままおかしな顔を晒すキッシュはもごもごと口を動かして俺を睨む。

「おっさんじゃない、キッシュは女の子だもん」
「んん?おかしいな、変な顔してモゴモゴ言ってるやつがいる…」
「もう、キャシー!」
「おっとなんだよ、キッシュちゃんじゃない。可愛い顔してどうかした?」
「怒るよキャシー」
「…怒らないでよ」

ちょっとからかっただけじゃん、キレ気味のキッシュの声に俺がぱっと手を離して両手をあげると、
彼女は自分のほっぺを両手でさすりながら不機嫌そうに眼を細めた。

こんなにちっちゃくたってキッシュも女の子、
いちいち可愛いリアクションを見せるこの子をからかうのが楽しくて仕方のない俺からしてみれば、
そんな不機嫌そうに眉音にしわを寄せてみせたってダメだ、この俺には何の効果もない。
むしろ余計可愛く見えちまうんだから逆効果だ。

「俺がやるから嫌がるんだろ。ハチコがやったら喜んじゃうくせに」

ぼそりとそう呟いてみれば、小さなキッシュは見る見るうちにその可愛らしい顔を赤くした。

「そ、そんなことないもん!ハチルちゃんはこんなことしないもん!!」

おいおいそんなに可愛く反応するなよ、予想通りとはいえ、おじさんもっといじめたくなっちゃうよ。いいのかキッシュちゃん。
無意識のうちに緩んだ頬をニヤリと持ち上げれば、
目の前には必死で首を振りながら、何のためだが『ハチルちゃん』をかばって弁明を述べる未来の女王様。

ハチルちゃんは優しいだのハチルちゃんはステキだの、しのごの言うこの子を見ているとなんだかもやもやして溜息吐きたくなってくる。
あーあーあいつは全く罪作りな男だぜ、
あいつの優しさに騙されちゃったりしている可哀想なお嬢さんたちはやっぱり俺が救ってあげるしかねーよそうだよ、

可愛い顔してハチルちゃんにぞっこんのこの子をからかおうと思っていたさっきまでのうきうきした気分は何処へやら、
俺は結局喚くキッシュを乱暴に抱えあげるとさっさと肩に担いでしまって、
おろしてよとじたばた暴れるわがままお姫様の面倒を見てくれる王子様を探しに出かけたのであった。

「おろしなさいキャスケット!怒るわよ!」「(もう怒ってんじゃん…)」