うだるような暑さの中、庭に引っ張りだした小さなビニールプールの中に浮かんだ黄色いゴムのアヒルがゆらゆら揺れていた。遊び疲れたシシーはもうとっくにプールから上がって、俺はシシーの髪をタオルで拭いてやっていた。シシーと同じぐらいびしょぬれになったハチルさんが、クーラーボックスの上に座って、あくびをする。青い空の下、真夏の太陽に照らされた眩しい水面に、遊び尽くされて飽きられた、色鮮やかなおもちゃが放置されていた。
「プール、楽しかった?」
尋ねれば、小さなシシーがそっと頷く。思わず零れ落ちる笑みはそのままに、俺はシシーの前にしゃがんで、彼女をバスタオルで包んだ。ふわふわしたタオルで、かわいい水着姿のシシーを抱きしめる。ゆったりと甘い香りがする。そのまま髪を拭いていたら、タオルの隙間から見えた瞳をシシーがこすった。
「疲れたろ、シシー。眠そうだ」
ぽやんとした瞳に笑いながらそういえば、シシーも小さな頭を揺らして頷いた。でも寝る前に体をちゃんと拭かなくちゃね。風邪なんか引いたら大変だ。小さなシシーの体をバスタオルごと抱き上げると、シシーの手が俺の首に回ってきて、ぎゅっと小さく抱きしめられる。俺は思わず微笑んで、彼女の頬にキスをする。
「うたたさーん、俺にもタオルください」
肩をすくめて俺を見るハチルさんの方へ、俺は余ったタオルを投げてやる。
「やさしーね転さん」
「シシーに風邪うつされると困るんで」
微笑んだ俺の嫌味に、ハチルさんはいつもの呆れ半分の苦笑いを返した。
俺はプールに突っ込んでいたホースを掴んで引っ張りだすと、先をつまんで水圧を上げたまま、ハチルさんにその口を向ける。彼は慌てて飛び退いたが、さすがのモンスターでもあれだけぼうっとしている間に不意打ちされたらびしょ濡れになる。ハチルさんの髪がぐっしょり濡れて、いつもよりすっきりした髪型で彼は恨めしそうに俺を睨んだ。
「そっちの方が男前ですよ、ハチルさん」
「ごていねいにどうも」
耳元からは、遊び疲れたシシーの気持ちよさそうな寝息が早くも聞こえてくる。びしょ濡れのハチルさんに、体拭くまで家入って来ないでくださいねと笑顔で告げて、俺はシシーを抱えて居間へと向かった。
背中を追いかけてくる太陽の熱。
夏はまだまだ、元気だ。