ラブロマンスを食べる

君の事を四六時中考えてたんだ。 考えてたら、つらくなった。
パンケーキの塔の向こうで、苦しそうに彼は呟いた。
もぐもぐ口を動かしながら、あたしは左手に持ったフォークを小さく切ったパンケーキに突き刺して、ハチミツの海にどっぷり浸けて、それから口に放り込む。
甘い香りが、あたしの脳味噌を支配する。
目の前にあるのはおいしいパンケーキ。すてきなたべもの。しあわせなくうかん。
青白い顔した辛気くさい男の独白なんか、あたしには関係ない。

「僕は君を大事にしたくて、守りたくて、」

彼は苦しそうに先を続ける。
その言葉は順番に、右から左へ抜けていく。
こんにちはー、ようこそー、さようならー。

「そうしてると、とてつもなく幸せで、とてつもなく苦痛なんだ」

かつ、とフォークが白い食器にあたる音が、テーブルの真ん中に響く。
ちらりと見上げた彼の顔は、あー情けない、泣きそうだった。

「僕の事が好きじゃないんだろ」
「好きですよ」

にこり、微笑んだ口が言う。そう言って欲しいんでしょ?
でもこのパンケーキと自分を比べないほうがいいです、
青白い顔が、少しだけ不満そうにゆがめられる。
だってそうでしょ、このパンケーキに敵うものなんて、この世の何処を探したって無いもの。

パンケーキタワーを、イチゴジャムが滑っていく。
滴り落ちていく赤くてステキな液体は、ゆっくりゆっくり重力にそってあたしの視界を上から下へ移動する。
この感じは特別。ワクワクする、この感じ。体が、心が、無意識に反応して、ぞわぞわする。

「あなたの事愛してます。食べちゃいたいぐらいに」

掴んだ右手、今食べたっていい。
あたしのこと、愛してるんでしょ。
あたしは今、あんたよりもこのパンケーキを愛してるの。
だからあんたはパンケーキに感謝するべきです。
そうじゃなきゃ、真っ赤に染められてナイフで切り分けられて、フォークで突き刺されるのは、あんたなんだから。

「わかってないなあ、大好きなんです」

そう、あんたは特別。
あたしデザートは、最後まで取っておくタイプなんです。

ラブロマンスを食べる
title by リリトちゃんとギヨくん